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ラスベガスからの手紙――アメリカよ。そこをどう経営しているのか?

「おまえはクビだ!」とは言ってない

長野慶太

ドナルド・トランプという男がいる。

実業家というより、もはやセレブ(有名人)である。破産から再生した経営者として名を馳せている。そのトランプが、自身にそっくりな役柄でドラマに出て、「おまえはクビだ!(You’re fired!)」と怒鳴り散らすシーンがお茶の間で人気だ。

契約社会と言われるアメリカ社会だが、こと企業が従業員を採用するときにほとんど契約書は交わさない。それは簡単にクビにできる環境にしておくために他ならない。

しかしほとんどの経営者や人事担当者は「おまえはクビだ!」などと怒鳴ることはない。あれはハリウッド映画だけの話と思っておいたほうがいい。

だから実際の現場での解雇行為には経営者もとても気を使っている。

まず、同僚がいる前で「クビだ」などと怒鳴ることはまずありえない。それは残る従業員の職場の雰囲気を著しく傷つける。次に、多くの州では解雇に理由などいらない。理由が必要なのではなく、不当解雇をさけることが必要なのであって、不当とは人種や信条、宗教や性別、身体的障害など、職責と無関係な理由によってされる解雇のことだ。だから、解雇理由をくどくどと述べることよりも、部屋にはオフィスマネージャーを同席させて不当解雇でないことの証人になってもらうことのほうが意味がある。そして、なんと言っても言葉には気を使う。

You’re fired! などとは経営者は言ってない。We will let you goなどと言う。解雇ではなく、解放すると言っているのだ。単なる言葉の選択とは言い切れない。そこには、そういう言い方をして解雇されるものの立場を配慮する文化が確実にある。

同時に、解雇されるほうも「Wakeup call(目覚まし時計)」と言い表して受け止める。つまり、自分が解雇されたのはそのポジションに求められているスキルが自分に足りなかったということを目覚めさせてくれた信号だと考える。必要以上にエモーショナルなものをそこに持ち込まない実質主義。これも文化だ。

トランプ・ホテル&カジノリゾート社は先月また会社更生法を申請した。トランプ本人は、日本であればもう二度と浮上しまい。ところが、米国市場は彼をクビにせず、引き続き彼を同社のCEOとして働かせる予定である。そのほうが株主に資するという実質的な判断である。

カメラの前で白い歯を剥いて「クビだ!」と怒鳴るカリスマ経営者は某紙のインタビューに答えて言った。

「実生活では、僕は人を解雇するときには、その人がどんなに素晴らしい仕事をしてくれたかを誉めて別の職場でならきっとうまくいくはずだよと伝えるんだ」

 言葉は経営だと思わせる。

ビジネス誌「財界」連載中
1/17/2005号より転載
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筆者:長野慶太
対米進出コンサルタント。ラスベガス在住。ネバダ・ジャパン・コンファレンス(www.usjapan21.com)社長。1965年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、三井銀行入社。ラスベガスの法律事務所Woods & Erickson勤務ののち、起業。大石&荻原 国際会計事務所社長。講演多数。近著に「ラスベガス 黄金の集客力」 (ダイヤモンド社刊)等がある。