2004年12月23日
経営者に「私財提供」させるのは日本だけ
森 摂
ダイエー創業者の中内功氏(82)がダイエー本体・関連会社の株式や自宅など全資産を売却することになった。総額は200億—300億円に上る見込みだ。中内氏個人や資産管理会社は売却額を上回る負債を抱えており、その弁済に充てるという。
日本では、特に創業者やカリスマ経営者が企業を破綻(はたん)させた場合、「私財提供」を求められるケースが多い。2000年に破綻したセゾングループの不動産開発会社「西洋環境開発」(東京)のケースでは、グループ創業者の堤清二氏が私財約100億円を提供した。ゲーム大手セガの故大川功・元社長も、再建のため私財約780億円を贈与した。
こうした私財提供に対して、日本では「当然」と見る向きが多い。「経営者に蓄財があるなら負債の返済に充ててしかるべき」「経営難を招いた責任者が豪邸に住んでいたのでは示しがつかない」「(産業再生機構の支援などで)国民の血税を投入するのなら、私財提供は仕方ない」——などの意見をよく目にする。
中内氏のケースでは、田園調布(東京都大田区)や六麓荘町(兵庫県芦屋市)にある自宅を大々的に写真で紹介した上で「会社を潰したのだから豪邸を取り上げられても当然」と庶民感覚をくすぐる記事が目立った。
だが、「私財提供」して経営責任を取る手法は、日本だけのものである。
例えばアメリカ会社法は「株式会社の中核概念」を次のように規定している。
(1)株主の個人財産と企業財産を区別するための独立した法人格
(2)株主・経営者の有限責任
(3)株主出資の小口化
(4)取締役会組織にもとづく経営委任
(5)株式譲渡の自由
つまり、株主は出資した分だけ、経営者は委任された業務の範囲内でのみ責任を取る。私財を提供することはあり得ない。経営の手法が違法であったなら、刑事訴追や行政罰、あるいは株主代表訴訟で決着をつけるのが本筋だろう。
根拠があいまいなまま、あくまで「自主的に」私財を提供させる。提供する方もそれを潔しとする。これでは、現代の「切腹」に過ぎない。なにより、こうした理不尽な「切腹」が横行すれば、次代の起業家たちが二の足を踏む。
米フォーブス誌は、仏ビベンディを経営難に陥れたメシエ元会長が最近、ニューヨークでM&A(企業の合併・買収)専門会社を興したと報じた。メシエ氏は米仏の司法当局から粉飾決算の罪で起訴され、日本円換算で億単位の罰金を支払った。メシエ氏が法的な責任を取った上で第二の起業に踏み出せたのも、不当な私財提供を求められなかったからだ。
2002年版の中小企業白書によると、米国で破産した経営者の47%が再び会社を立ち上げ、経営者として復帰しているのに対して、日本では13%にすぎない。一度失敗した経営者が立ち直るのことがいかに難しいか分かる。
企業への貸し付けで創業者に債務保証や担保入れを求める銀行にも問題があるが、経営責任と私財提供を安易に結びつける風潮を改めない限り、この国の資本主義は健全にならない。
投稿者 森 摂 : 2004年12月23日 00:53 | [EDIT]
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