2004年06月21日

イヴォン・シュイナードと岩崎小彌太

森 摂

 イヴォン・シュイナード。高校生のころから登山やサーファーに熱中し、カリフォルニアの高校を卒業してすぐに登山用具製造の「シュイナード・イクイップメント社」を創業した。この会社は1979年に「パタゴニア」と名を変え、今では世界的なアウトドアウェアのブランドとして若者の間で高い人気を誇る。4年前に社長の座を譲ったが、66歳の今も会社の精神的な支柱として後進を指導している。
 パタゴニアは世界で初めてペットボトルから再生したフリースを販売したほか、有機コットンのシャツの販売に力を入れている。また、売上高の1%か税引き後利益の10%のうち大きい方を地球税として環境保護団体に寄付するなど、米国の「地球に優しい企業」の草分けとして知られている。
 イヴォン・シュイナードが社員に求める行動規範のなかで重要とされるのが integrity (誠実)という概念だ。顧客、同僚、取引先などすべてのパートナーに対して誠実さをもってあたる、というニュアンスだ。高潔とか清廉という意味もある。日本ではあまり知られていない言葉だが、最近「岩崎小弥太」(中公新書)という本を読み、同じ言葉が出てきたのに驚いた。

 岩崎小彌太は創業者彌太郎の甥にあたり、1916年(大正5)年、三菱合資会社の第4代社長に就任した。高い志と経理理念を持ち、三菱の礎を築いた人物である。小彌太の訓示を元につくられた社是「三綱領」(所期奉公、処事光明、立業貿易)は今でも三菱グループの新入社員に叩き込まれる。そして「処事光明」の訳語こそが、integrity and fairness である。
 この三綱領をまとめて2ヵ月後の1934(昭和9)年4月、小彌太は傘下の三菱造船と三菱航空機を合併して「三菱重工業」を発足させた。造船と航空機という近い業種のメーカーを合併することで技術力を向上させ、一大重工業企業を目指したほか、当時すでに三菱の伝統となっていた「縦割り意識」を排除する狙いもあったとされる。
 いまリコール隠し問題に揺れる三菱自動車や三菱ふそうは、この三菱重工の自動車製造部門が独立してできた企業である。企業の対面を保つために欠陥情報を隠し続けてきた経営陣は、このintegrity and fairness をどう読んできたのだろうか。
 80年前以上の日本企業の社是と、若者に人気がある米アウトドア企業の社是が不思議に一致する事実は、時代や洋の東西を問わない企業経営の普遍性を感じさせて興味深い。パタゴニアのイヴォンは「100年生き抜ける企業をつくりたい」と社内外で公言し、「だからこそ社員ひとりひとりの意識が大切」とintegrity の重要性を説く。岩崎彌太郎が1870(明治3)年に三菱財閥の前身、九十九商会を設立してから130年あまり過ぎた。三菱自動車の落日ぶりや三菱造船で頻発する火災事故を見るにつけ、創業者のDNAを100年以上も伝え続ける難しさを再認識せざるをえない。

投稿者 森 摂 : 2004年06月21日 00:44 | [EDIT]

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コメント

読みたかった書籍を訳していただいて感謝です!

投稿者 tra:) : 2007年04月01日 12:58

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投稿者 rilctkm sgnjtua : 2006年08月09日 14:25

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