2006年03月13日

イスラエル選挙狂想曲

福地波宇郎

イスラエル総選挙が3月28日にもたれる。テレビでは政見放送や各党のコマーシャルがしきりに流されている。イスラエルメディアは言論の自由ということを第一義においているため、首相批判、内閣批判などは日常茶飯事でときにはそれが高じて個人攻撃にまで発展する。今回の政権CMでもそれぞれの特色が出ていておもしろい。

今回の選挙はエフード・オルメルト首相代行が率いる新党カディーマが大勝するとの予想がすでに立てられており、代表的二大政党であった保守派リクードと左派労働党がいかに議席を確保するか、そして小型政党は社会問題を焦点にどこまで食いこめるかという票の奪い合いが展開されている。

現在のイスラエルが抱える主な問題は次の三つである。
1、パレスチナとの和平領土問題
2、1に基づく入植地撤退による国内世論の分裂
3、不景気による貧困層の増加

大型三大政党以外は、どこと連立を組むかでその対応が変わってくる。宗教政党の中で最も影響力の強いシャスはオルメルトと接近し、カディーマと連立を組む姿勢を示している。
逆に世俗派政党の急先鋒であるヘッツ党は、オルメルトがシャスの大会で協力を呼びかけている映像を流し、カディーマも宗教政党の影響は免れないとしてオルメルト不支持のCMを流している。

そのほかにも数多くの政党があるが、CMを見る限り印象的なのは革新左派のメレツ党がある。嘆きの壁に願い事を書いた紙をはさみながらそれぞれが祈るのだが、その内容はエチオピア系の女性が「大学を卒業できるように」というものや、老人が「孫にお土産を買ってあげるだけの収入があればいい」と世相を反映するものだ。
その中に男性が「ボアズと結婚できるように」と祈るシーンでてくる。ボアズとはユダヤ人によくある男性名である。宗教的にタブー視されている同性愛者の視点も取り入れたということだろうが、よりによってユダヤ教の聖所をモチーフによくやったものである。

他のバージョンでは、精子の着ぐるみをきたお笑い二人組がこれから生まれていく社会への不安をコミカルに演じるものもあった。日本でこんなものを政党が流したら大問題になるのは間違いない。ユダヤ人のシニカルさはこういった局面にもよく現れている。

イスラエルこそ我が家、とはリーベルマン党首率いるロシア系移民が基盤の政党だが、普通にロシア語のYES、NOであるダー、ニエットという単語を用いてニェット・オルメルト、ダー・リーベルマンと気勢をあげている。CMの内容自体はなんの統計データもなく、リーベルマンこそが国会で何にも屈せず戦い続けてきたと連呼している。イスラエルで急増している犯罪問題に焦点を当てているが、リーベルマンには犯罪を阻止する明確な方法がある、といって彼が語ったのは、「犯罪者は牢屋から出さない」という一言だった。
イスラエルでの犯罪急増はロシアから流れ込んだマフィアによる部分が多いということにはもちろん触れてはいない。普通に見ているとあきれるが、ロシア系票田の力は強く世論調査では8議席は確定と見られている。

リクード党のCMでは、小型政党の名が記された投票用紙が次々とシュレッダーにかかり、小型政党では大政党に歯が立たないとよびかけるものもあった。現在の貧困問題は党首ネタニヤウが首相時代に行った養育、年金補助のカットに端を発していることもあり、貧困問題にはあまり触れず安全保障と和平問題に焦点をあてている。労働党は暗殺された和平推進派ラビンの遺志を継いでいるとし、カディーマは現在脳梗塞で植物人間状態のシャロン首相の遺志を継いでいるとそれぞれ宣伝している。

シオニズム系宗教政党は主に入植地撤退によるユダヤ人同士の攻防を流し、このような状態をもたらしたのは安易な和平交渉によるものだとして、国民に広がる安全保障への不安に訴えかけるものが多い。宗教政党と真っ向対立しているシヌイという世俗政党はそれさえもお笑いとして人形劇にし、能天気に警察にブロックを投げつける入植者をロバ(=馬鹿の象徴)のキャラクターにしたてて描き出している。こいつらこそイスラエルの恥で怖いのは宗教的熱狂だとコメントし、最後には「シヌイを国会へ、シャスを追い出せ」とのスローガンで締めくくる。

イスラエル市民権を持つアラブ人政党も三党ある。共産系、保守系、革新系となっているが、それぞれに数少ないアラブ系市民の票の食い合いをしている上、アラブ系市民はイスラエルの選挙には興味が少ないため厳しい戦いを強いられている。

そのほかにも銀行と戦う党(イスラエルの銀行は普通預金では利子がつかず使用料が逆に取られる)や環境問題に関する党などもある。ただ、以前まで出ていた大麻容認政党は姿を消していた。

イスラエルの選挙となると必ずパレスチナ側がどの政党の勝利を願うかというコメントを出すのだが、今回パレスチナのファタハ代表であるアッバースはカディーマの勝利を願うとコメントした。これに和平推進の主役と自負していた労働党は落胆し、リクードはカディーマを左翼政党であるとして入植者や保守派国民のカディーマ離れを促した。

カディーマ自体、様々な政治家が流れ込み右か左がはっきりしない状態であったがこのコメントをもとに世論は中道左派という見方をするようになった。しかし、このコメントは政治的にハマスを押さえ込める唯一の可能性があるファタハがカディーマを認めたことになり、いかなる形でも和平交渉の再開を願う国民の票はカディーマに集まるものと考えられる。

街中では各政党の横断幕がぶらさがり、交差点では信号待ちの車にそれぞれの政党のステッカーを支持者が配っている。ふと交差点で小さなチョコレートとともに渡されたステッカーは今まで見たことの無いものだった。よく読んでみると「甘党が一番」と書かれたチョコレート会社の選挙便乗宣伝。どこまでもたくましい国民である。

                                           http://blog.shaul.ciao.jp/

投稿者 福地波宇郎 : 2006年03月13日 18:47 | [EDIT]

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