2006年01月12日
イスラエル政局に新たな波
福地波宇郎
イスラエル政界再編
長年二大政党制を保ってきたイスラエル政界で新たな動きが起きている。
保守派リクード党の党首であり、リクードを立ち上げた人物でもあるアリエル・シャロン首相がリクードを脱党し、新党「カディーマ」(ヘブライ語で前進の意)を立ち上げた。
右派リクード、左派労働党というこれまでの図式を塗り替え、こう着状態にある和平行程と国内安全保障問題の打開が狙いであるとされている。
リクード党内ではタカ派として知られるベニヤミン・ネタニヤウ元首相が台頭しており、ガザ入植地撤退を巡る対立が表面化していた。
新党設立後、シャロン首相に賛同する国会議員多数がすでに移籍を表明しており、シモン・ペレス元首相・前労働党首やエフード・オルメルト副首相なども名前を連ねている。
シャロン首相倒れる
そのような変動の中にあって1月4日、以前から脳梗塞で入院歴のある首相が突然倒れ新たに手術を受けることとなった。
術後一週間が経過するが、まだ意識は戻っておらず、国民の関心が集まっている。
現地紙の報道によると麻酔によって昏睡状態が続いていたが痛みに反応して手足を動かすことが確認され、麻酔の投与も中止された。注目を集めている後遺症だが、どの程度の脳障害が残るかは意識が戻るまではまったく予想ができないとされており、首相職に復帰できるか分からない状態である。
新党カディーマが立ち上げられたばかりでの出来事であり、党規則もまだできあがっていないためエフード・オルメルト首相代行が中心となり組閣名簿作りが行われている。
また、シモン・ペレス元首相もカディーマのNo.2となることで入党を承認していたという事実が報道されており、今後も引きつづき労働党、リクード、そして改革左派シヌイ党から移籍してきたメンバーがカディーマを構成し3月に行われる総選挙を迎えようとしている。
各党首の顔ぶれ
新党結成により、イスラエルは事実上、三大政党となった。
1月10日に国内のハアレツ・ニュースチャンネル10が行った世論調査に基づく擬似選挙では全120議席中カディーマが44議席、労働党が16議席、リクードが13議席との結果となった。
カディーマはさらに改革左派のシヌイ党、メレツ-ヤハッド党と連立を組む模様である。和平政策の調整次第では労働党との連立も考えられる。
それぞれの現在党首は余り日本でも馴染みが少ない人物かもしれない。
リクード党首ベニヤミン・ネタニヤウは96年にイスラエル初の国民直接投票でシモン・ペレス(当時首相)を破りイスラエル史上最年少で首相となった。経済にも明るく端正な顔立ちにMIT仕込みの英語で、湾岸戦争当時には国連スポークスマンとして世界に名を知らせた。兄はエンテベ空港ハイジャック事件を解決し、その事件で命を落とした国民的英雄でもある。経済失策とスキャンダルで一時政界を退いたが支持者からの後押しにより復帰した経歴を持つ。シャロンを越えるタカ派ともいわれ、国内安全保障を求める入植者や保守派には人気が高い。
労働党党首アミール・ペレツはヒスタドルート(労働組合)の議長を長年勤め、イスラエル国内の労働者から厚い信望をうけている人物である。特に貧困層や庶民の支持が強く、労働状況の改善や福祉の充実などに期待が寄せられている。しかし、イスラエルにとって最も重要とされている国内外の安全保障問題には信頼が乏しく、首相は勤まらないのではと危惧する声も多い。
カディーマ党首および首相代行エフード・オルメルトは長年リクードでシャロンの片腕として勤めてきた人物である。以前から入閣を勧められていたが断りつづけ10年に渡りエルサレム市長を続けてきた。市長職を離れた後、副首相兼経産相として入閣、2005年4月には日本をおとずれ、小泉首相や中川経済産業大臣とも会談を果たしている。経済だけではなく、安全保障問題にも明るい上にユダヤ人の聖都エルサレムへの思い入れも人一倍強いため、領土問題でも安易な妥協をせずに和平を推進するのでは、との期待をもたれている。
パレスチナ
イスラエル総選挙に先立ちパレスチナ自治政府の選挙が1月25日に行われる。
ここにおいてオルメルト首相代行が東エルサレム地区で行われるパレスチナ選挙にはユダヤ撲滅を標榜する武装勢力ハマスの参加は認めないと宣言した。これによりパレスチナ側からの反発も起こっている。
ハマスはPLO自治政府の腐敗に嫌気のさした大衆や貧困層からの支持が厚いこともあり、東エルサレム約11万人のアラブ人有権者がこの宣言を認めることはまずありえない。
パレスチナ側は1996年に行われたパレスチナ選挙と同じ方式で行うことを主張しており、今回の首相代行の宣言によりハマスは反イスラエル感情を持つパレスチナ内で逆にその支持を伸ばしたとも言われている。
アラブ諸国はシャロン首相入院に際し見舞いのメッセージを送っている。占領下のパレスチナでは首相の病状悪化を祝うために菓子がばらまかれるシーンもあった。しかし現時点での交渉相手として、イスラエル国内に最も影響力があり、パレスチナに対し軟化を見せ始めているシャロンにこのまま続投してもらうことが望ましいとも考えられている。
総選挙の焦点
今回の総選挙で焦点とされるのは1)和平行程および領土問題、2)経済問題、3)安全保障問題である。長引いたパレスチナの民族蜂起により国内経済も破綻しており、失業者数も増加の一途をたどっている。また、アラファト議長の死去によって台頭してきたパレスチナ武装勢力に対する脅威も深まっており、それぞれの政党が問題の落としどころを何処へ持っていくかに国民は注目している。
シャロン首相が復帰するか否かに加え、先にもたれるパレスチナ選挙、アラブ諸国の反応など様々な要素が交錯する。
このまま行けばカディーマが議席の過半数を得ることは間違いないとされるが、イスラエル総選挙までの期間、冷静になった国民がまだ固まりきっていない新党に対する不安を見出す可能性もありえる。領土や入植地の譲渡に反対する宗教政党、保守派の国民も巻き返しを図っている。
今回の選挙はパレスチナ問題の今後を大きく左右すると同時に、これまでのイスラエル政局を大きく変える歴史的な選挙となるであろう。
http://blog.shaul.ciao.jp/
投稿者 福地波宇郎 : 2006年01月12日 02:10 | [EDIT]
