2006年01月01日
「人口減少でも繁栄」論のウソ
森 摂
日本の総人口(日本人に住む日本人と外国人)が減少に転じた。2005年10月1日の国勢調査(速報値)によると、日本の総人口は1億2775万人。1920年に調査を始めて以来、初めて前年を下回った。政府の予測より2年早く、世界の先進国で史上初めて、少子高齢化による継続的な人口減少時代に突入した。
国立社会保障・人口問題研究所はこれまで人口減少のペースを「2050年には約1億人」と推計していたが、これは日本人女性1人が産む子どもの平均数を示す合計特殊出生率が2007年に1.30台で底を打ち、長期的には1.39で安定するというのが前提。2005年の合計特殊出生率は1.26以下になるとの見方もあり、人口減少のペースはさらに進みそうだ。
私は2003年に書いたレポート「2006年問題の衝撃㊤㊦」(グローバルビジネスリサーチセンター)の中で、人口減少がもたらす経済・社会への影響は甚大であり、迅速で複合的な政策が必要と書いた。
特にサービス業やメディア産業、教育、運輸など内需依存型産業には、継続的な需要減がボディーブローのように響く。輸出ができない企業ほど影響は深刻だ。さらには、企業業績は右肩下がりが基調になり、景気の拡大と後退が交互に訪れる「循環」さえ危うくなる可能性も否定できない。
レポートでは、出生率向上のために未就学児童の医療費・教育費負担をゼロにする「子ども公共投資」のほか、優秀な人材を取り込むための「選択的移民制度」なども提案した。
だが、マスコミや学者の間では「楽観論」が圧倒的に多い。2005年12月31日付け週刊ダイヤモンドの「人口減少が続く社会になっても2%の経済成長は可能だ」(東京大学大学院経済学研究科の吉川洋教授)などはその典型で、労働生産性の向上や人的資本の活用で克服できると論じている。
こうした楽観論にはなんの根拠もない。企業はすでにグローバル競争のなかで労働生産性を上げる努力を続けている。人口減少時代に入ったからといって急に労働生産性が高まることはあり得ない。国民の高齢化はさらに進む。「これまで以上の労働生産性の向上」とは絵に描いたモチに過ぎない。
高齢者の活用を提案する論も非常に多いが、その多くは高齢者自身からのものだ。高齢者がいつまでも企業や組織の最前線にとどまり続ける状況は、若い世代の台頭を阻害し、社会の活力を損なう恐れもある。
一方、40歳代以下の世代は、人口減少時代について、より真剣に危機感を持つ人が多いようだ。移民の受け入れなど積極的な人口減少の歯止めに対して肯定的な意見が多い。そもそも、少子高齢化によって人口が継続的に減少するのは日本が世界の歴史の中で初めてだ。「実は誰も予測できない」というのが大前提で、「恐れるに足らず」と言い切ってしまうのは無責任でしかない。
日本のメディアや経済学者たちが頼りにしてきた米国の経済学界は、人口減少論の研究が遅れている。移民による人口増加が確実に見込める米国では、人口減少論の研究の必要がないからだ。
海図なき人口減少時代の日本は、「イデオロギー対立の時代」から「世代対立の時代」に突入するのではないか。1960年生まれ以降の世代は、年金を納めた額より受給額が目減りし、59年生まれ以前は受給額の方が多い。ここに決定的な分水嶺がある。
若い世代としては「選択的移民制度」など、人口減少に対する抜本策を真剣に考えていきたい。
投稿者 森 摂 : 2006年01月01日 03:18 | [EDIT]
