2005年06月07日

路傍の外国 ~露店商人の実態~

福地波宇郎

ネオンが輝き雑踏ひしめく繁華街の路上で働く外国人達。
その中でも目を引くのは露天商の姿である。所狭しと並べられたアクセサリーや偽ブランド商品。中東系とも欧米系ともつかない顔立ちの外国人が片言の日本語で客に説明をしている。

このような光景を見たことがある人も多いのではないだろうか。彼らは「バスタ」と呼ばれる露店商人でその殆どはイスラエル人である。 警視庁の統計によると昨年検挙された偽ブランド販売事件中、4割が路上販売によるものだ。検挙者の7割が外国人であり、その7割中さらに9割がイスラエル人によるものである。つまり外国人露天商はほぼ全員がイスラエル人ということになる。

新宿、歌舞伎町界隈。夜もふける頃にはJR東口へと延びる路上に客引きや様々な露店が姿を見せる。その中で偽ブランド商品を売っている外国人女性を見つけた。ためしに客を装って話かけてみた。

―このヴィトンの財布って本物?
―うーん、ホンモノ、、、っぽいネ。
 スーパーコピー、あまり違ワナイ。
―で、いくら?
―4千円。ケド3千円でもイイ。

しばらくやりとりを続けながら話をしていると、買わなくても別にいいから話をしようということになった。最近は露店で買う人も少なくなりヒマを持て余しているらしい。彼女はイスラエル地中海北部にあるハイファという町から観光目的でやってきた。イスラエルでは高校までが義務教育でその後、男も女も徴兵で軍隊に行くという。男は36ヶ月間、女は20ヶ月間というから決して短い期間ではない。その後、それぞれ就職や大学へと進むわけだが、その前に卒業旅行ならぬ除隊旅行というのが流行っており世界中を旅するのだそうだ。露店の売り子をしているのは旅費を稼ぐためだ。仕事を始める際にはエージェントがいて露店一式と商品、さらには寝泊りするアパートや移動用の車までがすべてセットで用意されているという。

「でも最近は警察も厳しいしあまりお客さんも買ってくれないし。友達は一杯できるからそれでいいかな、とかも思ってるけど。」
 彼女の話ではこの仕事を始める時は簡単で大もうけができるといわれたらしい。日本での露天商はすでに20年程前から存在しており、特にバブルの頃には一晩で100万近い売上を記録したイスラエル人もいるという。そんな伝説が今もイスラエルでは語り継がれており、日本に行けば旅行しながらお金が稼げる、と信じられているという。

あまりにも普通に街中に溶け込んでいる彼らだが、その背後のエージェントとはいかなるものなのか。彼女から別の露天商を紹介してもらった。同じくイスラエルから旅行で来ており、上野で店を開いているということだった。アメ横入口でそれらしき人物を見つけたので話をしてみると、名前は明かせないので仮に「ジョージ」と呼んでくれ、とのことだった。やはり売っている本人達も違法行為であるということはよく分かっているらしい。
 ジョージに更に詳しいことを教えてくれないか頼んでみると最初は渋っていた。奢るから飲みながらでも話をしようじゃないか、というとようやく承諾してくれる。
「いや、教えてもいいんだけどさ。バックに結構ヤバイ連中がついてるから俺もマズいんだよね。バレると。」

そう前置きするとシステムを説明しはじめた。彼によれば露天商を始めるには二つの方法があるという。
一つ目はイスラエルにいる時点で売り子として契約するやり方。これは新聞広告などで日本へ行く人、仕事アリという募集が出ているという。
二つ目は日本に来てからすでに露天商として働いているイスラエル人の紹介で始めるケースだそうだ。
いずれの場合にしても、そのバックにはイスラエルマフィアのシンジケートがあり、彼らが全て統括しているという。路上で店を開くにあたり、ヤクザへの場所代などもシンジケートからすでに支払われているのでヤクザとのトラブルは一切ないという。

「はっきりいって稼ぎになんかならないんだよ、この仕事。上納金がハンパじゃないからな。」
やはりそんなに旨い話があるわけではないらしい。住居や仕事道具、車は支給されるが光熱費、食費はもちろん自分持ち。さらに売上げから決められたパーセンテージの上納金を引かれていく。その内訳は、アクセサリー類が売上の60%、偽ブランド商品は75%が持っていかれるという。その上警察のマークは年々厳しくなっており検挙者の数も毎年増えつづけている。
「各地域にボスがいるんだ。連中はとっくに滞在ビザなんか切れてるから売り子なんかしない。普通、売り子はビザが残ってる入国3ヶ月以内の旅行者だけだよ。オレは韓国に出てビザを新しくしているから問題ないけどな。」
  
なぜイスラエル人がこの仕事についているのか訊ねてみた。彼が言うには幾つか説があるらしいのだが、バスタという露店システムはイスラエルのゲノサレという農村に住んでいた男性が世界旅行をした際に考え出したとされている。それ以来、東南アジアで安くアクセサリーを仕入れ、高く売れる日本で売りさばく形が定着したらしい。最初はアクセサリーだけだったがこの数年で偽ブランドも取り扱うようになった。

露天商の取締りが厳しくなったのにも理由がある。あまりに横行する偽物にとうとうブランド側が腰を上げたのだ。その中で最も被害を被っているルイ・ヴィトンとロレックスの日本支社が正式に被害届けを出した。偽ブランド商品販売はイスラエル人の担当だが生産や輸入などにはタイや韓国ルートも絡んでいると見られ背後には大掛かりな組織があるとされている。最近では時計は部品のみ仕入れ日本国内で組み立てられているという情報もあり、実際に神戸では偽ロレックスの組立工場が摘発されている。

「売ってる俺が言うのもなんだけどさ、こんなん買うのは世界中でも日本人だけだよ。他の国じゃ絶対買わない。欲しいヤツがいるから売るヤツもいる。ただそれだけだよ。」
ジョージは別れ際にそう言った。実際にフェイクとはいえ時計はロレックスタイプで1万5千円から2万5千円、ヴィトンのボストンバックは1万5千円前後で売られている。偽物にこれだけの金額を出すのが信じられないというのが本音だろう。

検挙者が増えているにも関わらず日本への入国者や露店で働くものが後を絶たない理由には国内情勢も関係している。2000年9月から始まったパレスチナとの新たな武力抗争の時代を軍隊で過ごしたトラウマからしばらくイスラエルを離れたい、という人もいる。また長引く情勢不安によりイスラエルも不景気となり就職難でもある。

売り子たちに提供されるアパートや車は代々引き継がれていて基本的に3ヶ月サイクルで売り子は交代する。日本でまとめ役をしているものの中には日本人と結婚し、すでに長期間日本に暮らしているものも多いそうだ。警察も全貌を掴もうと内偵を続けているが捕らえられるのは現行犯の売り子までだ。売り子たちも与えられた役割以上の情報は持っていないため組織上部の検挙にはつながらない。

とはいえ都内では監視の目が厳しくなったこともあり、最近では千葉や埼玉などの副都心で店を開くケースも多くなっている。東京の小岩や千葉の花見川区に売り子たちが住んでいるアパートも確認されている。彼らが捕まった場合、ほとんどが罰金刑に処せられる。罰金の額は商標法違反では50万円以下と定められているが、実際に課せられる額は20万から30万が相場となっている。偽物は売った方だけではなく偽物と承知して買った方も同じ罪に問われる。

極東を一目みたいとやってくる異邦人たち。そのネットワークを利用して荒稼ぎする黒幕。そしてその舞台を提供する面白半分に偽物を買う人々。不夜城東京の片隅で露天商は今や街の風景と同化している。昨年、イスラエルで若者にとったアンケートでは行きたい国トップ10に日本が入っていた。イスラエル人露天商が途絶える日はまだ当分なさそうだ。

月刊誌「オレまる」創刊号掲載記事(一部改変)

投稿者 福地波宇郎 : 2005年06月07日 18:39 | [EDIT]

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