2005年03月29日
カリスマ主婦、牢獄からの復活
岩下慶一
(AERA 3月28日号から転載)
ニットのポンチョにハイヒールという粋ないでたち。4日、ウェストバージニア州の女子刑務所から出所した“カリスマ主婦”マーサ・スチュワートが、集まった報道陣に笑顔で手を振りながら専用ジェット機に乗り込む様子は全米にテレビ中継された。新聞は一面で様子を伝え、CNNは1時間の特別番組を放送した。内容はすべて彼女を讃えるものばかり。彼女の“株”は文字通り急上昇し、経営するマーサ・スチュアート・リビング・オムニメディア社の株価は有罪判決が出た当時の4倍、上場以来の最高値を記録した。自らの名を冠したブランドの売り上げも好調だ。3年前には全米の集中砲火を浴びた彼女の評価がなぜこうも逆転したのか。
頂点からの転落
料理、ガーデニング、家具、ファッション、全米の主婦に“理想のライフスタイル”を提案するマーサ・スチュワートは、90年代はじめの登場以来、順調に知名度を上げてきた。雑誌「マーサ・スチュワート・リビング」はメジャー誌の仲間入りを果たし、ホストを務めるショーもCBSの看板番組に。マーサブランドの通信販売も成功し、オムニメディア社は99年に上場を果たす。
米国主婦の憧れに登りつめたマーサの転落のきっかけは、些細な株取引だった。投資していた製薬会社、イムクローンが開発した新薬の認可が拒否された事を知った彼女は、ニュースが公になる前に持株約4百五十万円分を売却した。億万長者の彼女にすればほんの小さなこの取引は、後に数十億円のお金と名声の損失をもたらす事になった。インサイダー取引だけなら罰金刑だが、イメージダウンを恐れた彼女のもみ消し工作が発覚、罪状は虚偽供述、共謀、司法妨害にまで膨れ上がり、5ヶ月の実刑判決を受けてしまう。
CBSは番組を打ち切り、雑誌の広告主は一斉に撤退した。昨年度のオムニメディア社の損失は60億円と言われる。またこの時期、ビジネスウーマンとしてのマーサの冷酷性を暴いたゴシップ本も出版され、まさに泣き面に蜂。
これだけなら単なる有名人の転落劇だが、彼女が次に取った行動は全米をあっと驚かせた。上告すれば実刑を回避できるにもかかわらず、自ら進んで収監されたのだ。
マーサ・スチュアートと牢獄、有り得ない組み合わせに人々は息を呑んだ。同時に彼女の潔さへの賞賛が巻き起こった。刑務所でトイレ掃除をしたり、他の囚人にヨガを教える彼女の姿はマスコミによって逐一伝えられ、世評は一気にプラスに転換していく。
緻密なイメージ戦略
一度はそっぽを向いたテレビ界も今や彼女のサポーターだ。秋からはマーサが中心の大型番組が2本スタートする。「アメリカ人は挫折から這い上がる話が大好きなんだ。気取ったイメージが鼻につくと言っていた連中まで今や彼女の味方」と自信満々のプロデューサー。
過熱気味のマーサ人気をしらけた目で見る向きもある。ロサンゼルスタイムズ紙は、「マーサのカムバックはマスコミ戦略の専門家や弁護士によって計算されたもの」と冷ややかだ。事実、事件が発覚した直後、マーサは有名人を顧客にする凄腕の危機管理専門家、ジョージ・サーン氏を雇い入れ、マスコミ対策を立てている。事件後ファンと交流するために作られたホームページもサーン氏のアドバイスによるものだ。
どこまでが“計算”だったのかは不明だが、刑務所生活を経験した彼女が更にタフになったのは間違いない。出所後初めて行った社員への演説を彼女はこう結んだ。「我々はいかなる時にも、人生をより良くする事に情熱的であるべきだ」
(ユナイテッド・フィーチャー・プレス 岩下慶一)
投稿者 岩下慶一 : 2005年03月29日 15:23 | [EDIT]
