2005年01月28日

浦和レッズの「自立」とメディアの無反応

成田好三

  サッカー・Jリーグが仮に、プロ野球と同様のシステムでリーグを運営していたとしたら、J1の浦和レッドダイヤモンズ(浦和レッズ)は今ごろ、どうなっていただろう。あるいは、Jリーグ発足当時、川淵三郎チェアマン(現日本サッカー協会長)と、その当時は最も実力があり、最も人気のある球団であったヴェルディ川崎の渡辺恒雄オーナー(当時読売新聞社長)との壮絶な「大喧嘩」で、川渕氏が渡辺氏に負けたり妥協していたりしていたならば、どうなっていただろう。

 浦和レッズは今ごろ、身売り話が進行中か、あるいは売却が既に決定していたかもしれない。最悪のケースでは、球団解散が決まっていたかもしれない。親会社の三菱自動車が、相次ぐリコール隠しの発覚とその後の対応のずさんさから、極度の販売不振に陥り、経営の屋台骨が大きく揺らいでいるからである。

 ドイツ代表としてW杯優勝を経験した、高年棒のギド・ブッフバルト監督の就任も、日本一速いFWエメルソンの獲得もなかっただろう。日本で一番攻撃的なDF田中マルクス闘莉王は埼玉スタジアムのピッチにホームチームの一員として立つこともなかったに違いない。ましてや、2004年後期にぶっちぎりでリーグ優勝を決めることなどあり得なかった。

 ■すべての原因は球団の赤字を補填するシステム

 親会社の経営が困難になれば、親会社から赤字補填を受ける子会社(球団)が、そのまま存続する訳にはいかなくなる。そのことは、2004年のシーズン、プロ野球ではっきりと表れた。近鉄本社は本体の再建のため近鉄球団をオリックス球団に吸収合併させる道を選択した。すったもんだの末、産業再生機構に再建を委ねたダイエー本社は、ダイエー球団を孫正義氏率いるヤフー・グループに売却した。

 西武鉄道株の有価証券報告書虚偽記載問題から次々と不健全、不明朗な経営実態が明らかになったコクド・西武鉄道グループは、今年中にも西武球団を売却せざるを得なくなるだろう。戦後半世紀以上にも及んで、法律と社会常識を無視していたことが明るみにでた企業に、社会の公共財としての性格をもつ球団を保有し続けることなど、許されるはずはない。

 近鉄球団の吸収合併による消滅も、ダイエー球団の売却も、西武球団の売却必至の状況も、すべての原因は親会社が子会社である球団の赤字を補填するシステムにある。

 日本のスポーツは長い間、企業と学校によって運営されてきた。企業は、社員に企業への従属意識を高めるためにスポーツを利用してきた。学校は、学校のステータスの向上、もっとはっきり言えば、より優秀な受験生をより多く集めるために、スポーツを利用してきた。日本のスポーツは、いつの時代にも他の誰かに従属し、他の何かの目的のために存在し、「自立」することはなかった。

 ■ニュースは「三菱ふそう消える」ではない

 1月17日、浦和レッズは記者会見してある発表をした。日本のスポーツにとっては、極めて重要な内容を含んだ会見だった。翌18日付の新聞各紙(一般紙)はスポーツ面の「ベタ記事」扱いにしたか、会見そのものを無視していた。朝日だけは社会面で「段もの」として扱ったので、朝日の記事「J浦和のユニホーム、『三菱ふそう』消える」 をここに書き写す。
             ◇
 サッカーJリーグ1部(J1)の浦和レッドダイヤモンズ(さいたま市)は17日、新ユニホームを発表した。プロ化以来、胸元にあった三菱自動車のマークは背中へ。背中にあった三菱ふそうのロゴはなくなった。
 これは、親会社の三菱自動車(本社・東京都港区)と結んでいた損失補填(ほてん)契約を3月で打ち切り、独立採算制に切り替えたため。
 浦和によると、92年のプロ化以来、三菱自動車に赤字分を全額負担してもらっており、総額は約100億円にのぼる。だが、Jリーグ随一のサポーターに支えられ、経営は上り調子。一時期は10億円にまで膨らんだ1年間の補填額は昨年度、約5700万円に。不祥事で揺れる親会社の力を借りなくても一本立ちして健全経営が可能なクラブへ成長した。
 ユニホームの胸元には三菱自動車にかわり携帯電話大手ボーダフォンのマークが入った。2年間で総額10億円(推定)という高額契約を結んだ。三菱自動車は今後も筆頭株主であることには変わりなく、ユニホームスポンサーとして年間約3億円(同)の支援を続ける。
 浦和の犬飼基昭社長は三菱自動車出身だが、「世界的なクラブを目指すためには、ボーダフォンがふさわしいと判断した」と話した。
             ◇
 Jリーグ発足当時、川淵氏と渡辺氏はことごとく対立した。冒頭に書いた「大喧嘩」である。読売巨人軍がプロ野球界の「盟主」であるとする渡辺氏は、Jリーグにもプロ野球界と同様のシステムを要求した。球団名への親会社名の採用と、TV放映権の球団への帰属である。川渕氏はこれを拒絶した。川渕氏の拒絶によって、三浦知良、北沢豪ら数億円単位の高額年棒選手を抱える球団の経営は立ち行かなくなった。渡辺氏は、ヴェルディ川崎を、兄弟会社である日本テレビ放送網に譲渡した。譲渡された球団が、現在の東京ヴェルディである。

 川淵氏は現在、日本サッカー協会会長である。自らを「キャプテン」と称して、サッカー界において絶大な権力をもっている。「川渕キャプテン」の功罪は、将来のサッカー界とメディア界の批判に委ねるべきである。しかし、渡辺氏との「大喧嘩」についてだけは、現時点でも評価すべきことである。

 ■親の自堕落さが子の自立を促した

 浦和レッズの会見で最も重要なのは、ボーダフォンへの10億円のロゴマーク使用料ではなく、それとは裏腹の関係ではあるが親会社である三菱自動車との、「損失補填(ほてん)契約を3月で打ち切り、独立採算制に切り替えたため」という部分である。

 親会社の存続そのものが保証されない状況の中で、サッカーのクラブチームである浦和レッズは、独立して生き残る道を選択した。戦後の人気作家だった太宰治は「家庭の幸福は諸悪の根源」という名言を吐いた。浦和レッズの場合は、親の自堕落さが子の自立を促したと言えるかもしれない。そうだとしても、スポーツが「自立」する事例が生まれたことは、日本のスポーツにとっては、大きなターニングポイントになる。

 浦和レッズの犬飼社長の後任に、三菱自動車からの天下りではなく、スポーツとスポーツビジネスを熟知した人物が選任されたときに、浦和レッズは本当の意味で自立したスポーツクラブになるだろう。

 浦和レッズ(三菱自動車)の決断は、「ベタ記事」で扱ったり、それ自体を無視したりできるニュースではない。日本のメディアは、昨年のプロ野球再編騒動で、旧態依然たる球界のシステム、なかでも親会社の赤字補填に依存する体質をこぞって批判してきた。しかし、依存体質から脱却し、自立への道を選択した球団が現れたときには、一部を除いては埋め草原稿扱いにしたり、ニュースそのものを無視したりした。メディアのこうした姿勢もまた厳しく問われるべできである。

投稿者 成田好三 : 2005年01月28日 00:19 | [EDIT]

コメント

どうでもいいけど

>ドイツ代表としてW杯優勝を経験した、高年棒のギド・ブッフバルト監督

年棒ってなに?
もしかしてブッフバルトは給料を「棒」でもらうの?

投稿者 tomo : 2006年02月12日 18:57

カズや北沢も、報酬を「棒」でもらうらしいな。

そもそも、「ねんぼう」で変換しても一発変換されないだろ・・・
なぜおかしいと気づかないかね。バカじゃないの?

投稿者 浦和命 : 2006年03月14日 14:52

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