2004年11月11日
水にあふれたヴェネツィアは本当に“キレイ”か
小池弘美
イタリア北東部、アドリア海に面した海岸線から、角のようにつきでた砂州状の土地と、細長いリド島にかこまれるようにして、潟“ラグーナ”がある。潟の中にあるのがヴェネツィアだ。飛行機の窓から潟に浮かぶこの島を見ると、胸が痛くなる思いがする。あまりに脆弱で、だからこそ美しさが際立つ。
今年10月末から11月のはじめまで、ヴェネツィアは何度となく高潮に悩まされた。何度となく、といったのは潮の満ち干きによって、ほぼ6時間おきに水面があがったり下がったりするからだ。満潮とアフリカ大陸からの風“シロッコ”が重なると悲惨である。海抜の低いサンマルコ広場はまちがいなく水浸しになる。そうなれば長靴で歩くか、そこここに渡された腰ほどの高さの臨時通行路を、混雑に耐えて歩くか、しかない。飲食店、ホテルのロビー、雑貨店のすべてに平等に水が入り込む。
この100年で、ヴェネツィアの地盤は23センチも下がったという。温暖化による海面の上昇、近くの工業地帯の地下水汲み上げが原因だ。シロッコも潮の満ち引きも昔からあったものだが、23センチの沈下とあいまって、近年さらに高潮の被害は大きくなっている。
幸いにしてわたくしは、ヴェネツィア本島ではなく、イタリア本土側の街に住む。高潮の時は、ヴェネツィア本島には行かない。街にあふれた水は純粋な海水ではない。運河に溜まっていた下水となんら変わらないのだ。
水面に映るサンマルコ寺院を美しいと思い、水のなかで写真撮影に興じる観光客に、水を差すようなことを言うようで申し訳ない。でも言ってしまおう。古来からのヴェネツィアの下水システムは、運河に流した汚水を引き潮にさらってもらう、いわば自然をうまく生かした汚水浄化方式なのだ。これからヴェネツィアを訪れる人たちに、これだけは伝えたい。
水にあふれたサンマルコ広場は、海岸ではない。はだしで歩くのはやめたほうがいいですよ。
投稿者 小池弘美 : 2004年11月11日 00:34 | [EDIT]
