2004年10月17日

米国の団塊世代 絶頂期の憂鬱

岩下慶一

米国のベビーブームは第二次世界大戦終了直後の1946年が始まりとされている。ブームの期間は日本よりもはるかに長く、1964年まで18年間続いた。現在のアメリカ人口の約四分の一にあたる7600万人がこの期間に生をうけた。

ベビーブーマーと呼ばれるこの世代は米国文化の一つの潮流を生み出した。60年代のベトナム反戦運動、ロックを初めとするポピュラーカルチャー、大量消費、これらはすべてベビーブーマーによって創造された、あるいは彼らのために演出された現象だった。社会現象となったビートルズの大人気、全米に吹き荒れた反戦運動、40万人の若者を集めた伝説のロックコンサート「ウッドストック」、どれも当時20歳そこそこだったベビーブーマーが中心となったムーブメントだ。その後、就労年齢に達したベビーブーマーは、膨大で安価な労働力として米国の経済を下支えし、数にものを言わせた発言権をもって米国世論の中心となってきた。

そして今、ベビーブーマーは人生のピークを迎え、米国社会の頂点に立ち始めている。
ジョージ・ブッシュ大統領もクリントン前大統領も、ブームの始まりとされる1946年生まれ。ブッシュ政権の閣僚中5人が1949年から50年代前半生まれのベビーブーマーで占められている。経済界に目を転じると、IBM社長、サミュエル・パルミザノは1951年生まれ、GMの会長兼CEO、リチャード・ワゴナーは出生数のピークである1953年生まれ。まさに“ベビーブーマーの絶頂期”だ。

米国産業においてもベビーブーマーの影響は大きい。彼らの巨大な購買力は、米国市場にとって常に“おいしい”存在であり続けた。出産ラッシュが起こった1940年代後半、ベビー用品市場が急速に拡大した。彼らが就学年齢に達した時には学校が不足し、大学を始めとするマスプロ教育の原型が出来上がった。自動車免許を取得しはじめる年にあたる60年代中盤には、フォードマスタングをはじめとする若者向けスポーツカーが次々登場、ベストセラーとなっている。

80年代初頭の米国の不動産ブームも、ブームのピークに生まれた世代の住宅購入熱が原因だ。教育、服飾、車、不動産…。米国市場は彼らを中心に展開してきたと言っても過言ではない。-ベビーブーマ-を抑えれば儲かる-過去40年間市場を支配した法則は、今でも有効だ。

しかし、“ベビーブーマーによる市場支配の法則”は、ひとつの憂鬱な予測を生む事にもなる。現在第一線で活躍しているベビーブーマーたちが引退するのは2010年頃。そしてその後の20年間、かつての劇的な人口増加曲線とまったく同じ割合で引退者が増えていく。いま社会保障(年金制度)の主要な担い手となっているベビーブーマーが年金受給者に転じてしまい、2020年頃には年金制度の収支は収入と支払額が逆転してしまう計算だ。日本の少子化ほど深刻ではないにせよ、20年後には2人の働き手で1人の老人を養う計算になってしまう。*1

未来の破綻を回避するために、幾つかの方策が検討されている。拠出型年金401Kを更に普及させる、医療保険の保険料負担の対象年齢を70歳に引き上げる、定年を延長する…。どれも決定的な解決には今一つの観がある。

定年後に不安な思いを抱えるベビーブーマーの中には、何とか老後を安定させようと投資に走る者も多い。しかし、株式市場の安定は誰も保証できない。エンロンの破綻以来、401Kへの不安も広がっている。

そんな中で、経済政策、特に株価の安定が2004年の大統領選挙の争点となるのは当然の成り行きだ。多くの企業が401Kを採用している現在、株価の暴落はそのまま年金の目減りにつながる。国内外の安全保障問題以上に、安定した経済を保持できる政権を求める声は強い。海外での評価と裏腹に、ブッシュ大統領が米国で根強い支持を受けている理由のひとつでもある。国内雇用対策・保護貿易を打ち出すケリーと、減税政策を継続し、企業主体の強い経済を維持しようとするブッシュ。両候補の経済政策にベビーブーマーがどのような判定を下すか-大統領選を左右する大きなファクターだ。
(AERA特別増刊10月1日号から転載 著作権:朝日新聞出版局)

*1 米国連邦議会予算局資料参照
http://www.cbo.gov/showdoc.cfm

投稿者 岩下慶一 : 2004年10月17日 05:07 | [EDIT]

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