2003年04月04日

オスカーのもう一人の主役

形山昌由

アカデミー賞の短編アニメ部門に「頭山」でノミネートされたアニメ作家の山本浩二(38)さんが、表彰式の帰りにシリコンバレーにあるデ・アンザ・カレッジを訪れ、生徒を前に講演した。聴衆の一人として参加した同校でアニメーションを学ぶ田井裕子さんによると、山本さんはとても繊細な感じのする人で、満員の学生を前にアニメーション制作のポイントや技術論などを丁寧に説明したという。

「頭山」はもともと落語からきている。ケチな男がサクランボの種を食べたために、頭に桜の木が生えた。人々が花見に訪れ、騒いではごみを散らかすようになったため、頭に来た男が桜の木を引き抜くと今度はそこに池ができた。相変わらず人々が訪れることでノイローゼになった男は、ついにその池に飛び込んで自殺してしまう。

山本さんは、この話を現代の東京に置き換えて10分間のアニメに仕立てた。色鉛筆と油性ペンを使い、美しい色のハーモニーを作り出す。流行のコンピューターグラフィックスを一切使わずに立体表現も手書きで描き出すなど、伝統的なアニメーション技法だけで描き上げた。それでも、優れた芸術に与えられる最高峰の賞にノミネートされるぐらいだから、完成度としては十分に高い。

アニメーションの起源は旧石器時代の洞窟壁画ともいわれているが、原理が発明されたのは1824年。ロンドン大学で生理学を研究していたピーター・マーク・ロジェが、人間の網膜に残存現象が起きることを突き止めたのが始まりとされている。それから104年後、ニューヨークでウォルト・ディズニーの描いた「蒸気船ウィリー」が上映される。チャールズ・チャップリンをモデルにしたといわれるミッキーマウスは、ここから誕生した。日本製のアニメが登場するのは20年後のことで、その後まもなく手塚アニメの時代に突入していく。

日本のアニメ−ションの年間市場規模は1860億円に上り、キャラクターライセンスを含めた総生産額は2兆円に達する。全世界のアニメ放映の6割は日本国内が占める。今年のアカデミー賞では、山本さんと同時にノミネートされた宮崎駿監督の「千と千尋の神隠し」が長編アニメーション賞を受賞するなど、日本はいまや名実ともにアニメ大国に成長した。

山本さんによると、アニメーション制作で大切なポイントは想像力だという。確かに、作り手の豊かなメッセージを盛り込んだ熱のこもった作品は、見る側の想像力を強く描きたてる。子供時代にアニメから勇気、希望、平和といったメッセージを受け取った人も少なくないだろう。

田井さんが、アニメーションは平和に貢献できるかを聞いたところ、「念頭に置いてはいるが無力なような気がする。ただし、異文化交流の面では大きな貢献を果たしていると思う」と答えたという。国際世論がどうであれ、一握りの権力者の決定で戦争が始まり、結果として関係のない多くの人々が死んでいく。夢を売るクリエイターとして、そうした現実を前に感じる無力感は如何ともしがたい。

だが、考え方の違う文化をもつ子供たちの心に共通した平和の意識を深く刻むことができれば、それも立派な平和貢献ではないか。国境を越えて広がるアニメーションにはその力があると信じたい。そう思い、微力であったとしても、アニメ先進国の日本が争いごとのない世界に向けて果たせる役割はまだまだあると感じた。

投稿者 形山昌由 : 2003年04月04日 19:35 | [EDIT]

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