2003年04月09日
物言わぬビジネスリーダーたち
形山昌由
「イラク戦争に関する主張が米国のビジネスリーダーたちからさっぱり聞こえてこない」。こうした問題提起を聞く。確かに今回の戦争に関して米国や世界経済への影響を論じる声は多いが、戦争そのものに対して何かを主張するリーダーの声を聞いた記憶がない。
オラクルのラリー・エリソン氏は3月の決算発表の席で、同社の中東地域での売上げ減少を紛争の影響と関連付け、「いまは大きな変革期であり、今後も注視する必要がある」などと述べた。しかし、これは自社ビジネスへの直接への影響を述べたものに過ぎず、今回の戦争に対する主張とはほど遠い。
ゼネラル・エレクトリック(GE)のジェフェリー・インメルト会長は、フランスのラ・トレビューン紙に「戦争はGEにどんな影響を与えるか」と聞かれ、こう答えたという。「私はビジネスマンであって政治家でないから・・・。米国人として大統領を支持はする。しかし、それ以外のことは私の領域を越えている」。
恐らく、どの経営者も押しなべて同じような感触なのだろう。こうした傾向は何もいま始まったことではない。しかし、歴史を見ると米国のビジネスリーターたちが伝統的に戦時に意見を口にしなかったわけでは決してない。フォード自動車を創設したヘンリー・フォード氏は、第一次世界大戦に米国が介入するのに公然と異を唱え、その後は国際連盟の設立を支援した。
鉄鋼王のアンドリュー・カーネギー氏は、アメリカ−スペイン戦争の結果として米国がグアム、プエルトルコと同時にフィリピンを併合することに反対した。結局、米国がスペインに2000万ドルを支払ってフィリピン併合が実現した際には、独立支援のために2000万ドルの寄付を申し出ている。
ウォール・ストリート・ジャーナル紙のハイモウィッズ記者によると、米国を動かしているビジネスリーダーたちは今回の戦争に関して表立って意見をいわないだけで、仲間内では激しい議論を交わしているという。
それでは、いまのリーダーたちが公に意見表明をしないのはなぜなのか。戦争で利益を得る場合にはストレートに公言しづらく、逆に損失が出る場合は株主を意識してなお更いいづらくなるため、との見方もあるがどうも釈然としない。それは昔も今も同じことだ。
単に気骨ある経営者がいないだけなのか。あるいは政権内にはびこるネオコンサバティズムなどを理由に、とくに戦争に反対する意見を主張するのをはばかる雰囲気が実業界全体に強まっているのだろうか。ベビーブーマー世代を中心とするいまのリーダーたちが何を考えているのか、理由はよく分からない。
ハイモウィッズ氏も、経営者たちのこうした行動は国民からの信頼を失う危険性があるとクギをさす。確かにエンロンやワールド・コムに代表される企業スキャンダルで、それでなくともビジネスリーダーたちへの信頼感は揺らいでいる。物言わぬリーダーたちに不信感が高まっても不思議はない。
民主党の熱心な支持者であるスティーブ・ジョブス氏が率いるアップルコンピューターは、前・副大統領のアル・ゴア氏を役員に招聘(へい)した。一方、マイクロソフトのビル・ゲイツ氏は、自らセールスマンとしてアジア諸国を訪問し、自社OSのオープンソース化に向けて必死のPRをした。
この時期に飛び込んでくる多くのこうしたニュースを聞くにつれ、この国は一体にどこへ向けて進んでいるのかと考えてしまう。決してビジネスが悪いということではない。ただ、何かが欠けているのではないかと思ってしまうためだ。大義の見えずらい戦争に対して一様に押し黙るビジネスリーダーたちが世界経済を引っ張っていると思うと、そこに潜在的な将来の不安を感じるためかもしれない。
政治の世界では早くもイラクの戦後復に話が移っている。アメリカが破壊した国土の再建には、大きなビジネスチャンスが含まれている。いままで口を閉ざしていたビジネスリーダーたちは、これからが出番とばかりに利潤を求めて一斉に口を開き始めるのだろうか。
戦争のためには多くの税金を費やした。大口納税者である米国企業は大手を振って復興に関わる権利がある、といわれればそうかも知れない。だが、できれば、そういう姿はあまり見たくないとも思っている。そうでなければ、強者の理論に振り回されて死んでいったイラクの人々が浮かばれない。
投稿者 形山昌由 : 2003年04月09日 19:31 | [EDIT]
