2003年05月13日

日本を追い上げる米国 ナノテク研究開発

形山昌由

「鉄の10倍の強度を持ちながら、鉄よりもずっと軽い物質」、「国会図書館の持つ全情報量を記憶する角砂糖ほど大きさの記憶装置」、「癌細胞を発生から間もない段階で発見する技術」−いずれも近未来映画のシーンに登場しそうな光景だが、これらはナノテクノロジーを利用しながら実現に向けて開発が進んでいる技術だ。

10億分の1を意味するナノから名づけられたこの微細技術は、想像も出来ないくらい小さな単位を扱う。ウイルス、たんぱく質の分子、DNA二重らせんの直径などの大きさがこの大きさに該当し、もう一単位小さくなると水素原子の直径になるという。原子や分子を操作して新しい物質などを作り上げるナノテクは、IT(情報技術)やバイオテクノロジーと融合することで、21世紀の経済や社会に革新的な変化を与えると期待されている。

日本ではほとんど報道されていないようだが、米国の科学技術を加速する法案が5月7日に下院を通過した。「国家ナノテクノロジー研究開発プログラム」と名づけられたこの法案は、国を挙げてナノテクノロジーを推進するために今後3年間で23億6000万ドル(約2761億円)を注ぎ込む。「国立科学財団」、「エネルギー省」、「航空宇宙局」、「環境保護局」、「国立標準技術研究所」などといった各団体と足並みを合わせながら、産官学で共同研究を進める。従来の研究開発予算に10%を上積みし、関係機関との連携をさらに強化した形だ。

ここ10年、ナノテク基礎研究でトップを走ってきたのは日本だった。それを追い上げる米国の動きは勢いを増している。国家戦略のNNI(ナショナル・ナノテクノロジー・イニシアチブ)を策定、ナノテクを「21世紀前半に経済、国家安全保障へ最も本質的な役割を果たす技術」と位置付け、膨大な予算を注ぎ込むことを惜しまない。そこには、今後10年間で1兆ドル(約117兆円)といわれるナノテク市場の主導権を握り、不透明な国内経済を一気に復調へと導く米国のシナリオが見てとれる。

90年代、バブル崩壊で経済的に大きな痛手を受けていた日本を尻目に、米国は双子の赤字を解消し、ITを原動力としながら華やかな経済復興を遂げた。あれから10年。カテゴリーをナノテクという名に変えた新たな産業競争はすでに始まっている。

投稿者 形山昌由 : 2003年05月13日 18:54 | [EDIT]

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