2003年07月24日

ITの空洞化が始まった

形山昌由

米国に住んで5年。カスタマーサポートへ電話をかけると、受話器の向こう側から明らかにアメリカ人とは違うアクセントの英語が聞こえてくることが増えた。単語を一語づつはっきりと発音するが、一方でクセの強い抑揚を伴った話し方は日本人の耳には聞き取りづらい。インド人の英語だ。

始めは米国で働くインド人オペレーターがたまたま対応に出ただけかと思っていたが、海を越えてインドへ電話が回されていることを知った。カリフォルニアとおよそ13時間の時差があるインドは、ちょうど昼夜が逆転する。米国人が仕事を終えるころに人々が働き始める2つの国は、24時間を有効活用してコラボレーションをするのにちょうどいい相性を持つ。

ITバブルの頃は、米国の夜間帯にインド企業がソフトウエア開発受託を行う取り組みが盛んに行われた。いまはそうした動きが企業全般に広がり、IT技術を利用した金融分析や会計、飛行機の設計、航空会社の予約業務処理など基幹業務分野にまで拡大している。米国企業のトップ500社のうち300社がインドへ何らかの業務を外注委託しているとの報告もある。

皆がこぞってインドへ移す本当の狙いは、経費削減効果が大きい。米国と比べて賃金水準が10倍から100倍も違う国で業務を行えば人件費が浮く。業績悪化に苦しむ多くの米国企業にとって、英語が通じて安く人を使えるインドはいまや格好の利益創出の場所になっている。ここへ来て、マイクロソフト、オラクル、インテル、アドビシステムズなどが次々とインドシフトを打ち出し、数千人規模の現地採用を明らかにしているところもある。

一方でしわ寄せを食ったのが米国人コンピューターエンジニアだ。バブル時にはコンピューターサイエンスの学位さえ取得すれば、企業から引く手あまたで採用された。だが、高給取りがあだになり、いまではリストラの優先対象になるほど状況が変わった。2015年には50万人の技術職ポストが海外流出するとの予測さえある。

一時代早く海外シフトが進んだ日本の製造業では、「汎用可能なモノ作りはアジア、主要設計開発と高度な製造技術は本国」という住み分けにより、空洞化の影響を最小限に食い止めてきた。しかし、大規模な生産拠点の必要ないデジタルプロダクトでは両者の境目もあいまいで、明確な役割分担が見えにくい。

米国はいま、まだ誰も突入したことのないIT産業の空洞化の入り口に立っている。最も、インターネットで世界中がつながり、どこからでもボタン一つでモノが買える時代では、従来の雇用と市場の関連性も形を変え、空洞化が経済に与える影響も異なってくる。そこから、IT産業を軸とした新たなグローバリゼーションが生まれてくるに違いない。

投稿者 形山昌由 : 2003年07月24日 18:49 | [EDIT]

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