2003年11月01日
クレメンスに憧れて世界一をつかんだ男
形山昌由
大方の予想を覆し、フロリダ・マーリンズがニューヨークヤンキースを4勝1敗で下した今回のワールドシリーズ。カギを握ったのはマーリンズの若きエース、ジョッシュ・ベケット(23)だった。
怪投という表現がピッタリだった。ベケットは1勝1敗のタイで向かえた第3戦に登板、速球とコーナーにコントロールされたカーブを武器に7回1/3を投げ、三振10個、許したヒットは主軸のディレク・ジータに対するわずか3本のみという力投を見せた。続いて中3日でマウンドに上がった優勝のかかる第6戦でも、ヒット5本、8奪三振でヤンキース打線を完封、3塁を踏ませぬ見事なピッチングを演じた。
これだけにとどまらない。ワールドシリーズ直前のシカゴ・カブスとのリーグ優勝戦でも、負ければ後がない第5戦に中3日で先発して2安打完封。その3日後の優勝決定戦でも4回を投げ、サミー・ソーサのいる相手打線を1安打に抑えた。ポストシーズンの成績は42回2/3を投げ、奪三振47、防御率2.11。MVPの名に恥じない大活躍を見せ、マ軍のマッキオン監督は「驚異的な活躍」と称えた。ベケットの今シーズンの成績が9勝8敗、防御率3.04だったことを考えると、それもうなずける。
ベケットの魅力は回転の良い速球だ。比較的素直な投球フォームから投げ込む97マイル(155キロ)を超える直球は、打者の振り出したバットの上を通過する。同程度の球速を持つメジャーの投手は多いが、ベケットのストレートの伸びは群を抜いている。プロ入り後、右手中指のマメをつぶして3度の故障者リスト入りしているのも、それだけ指にボールがかかっている証拠だろう。空振りの取れる高めのボール球と大きく割れるカーブを中心に組み立てていく小気味の良いピッチングは、読売巨人軍に在籍した江川卓投手の全盛期を彷彿させる。
なかなかの強心臓の持ち主でもある。試合後の会見では、表情を変えずボソボソと質問に答える。第6戦を前に「ヤンキースタジアムで投げるのは多くの投手の夢でもあるが?」との質問が飛んだときには、いつも通り淡々と、「別に夢じゃない。ワールドシリーズで勝つことだけが目標だ」。カブス戦でソーサの頭部をかすめる速球を投げたことに対しても「(打者が)大げさなリアクションをしたからそう見えたのだろう」とコメントするなど、落ち着き払った物言いはプロ3年目、23歳の若者には見えない。
速球投手の代表であるヤンキースのロジャー・クレメンスと同じテキサス州出身でもある。スプリング高校時代には、イニング数75回で奪三振155、防御率0.46の記録を残し、高校生の最優秀投手に選ばれている。ベケットの父親とクレメンスの兄が職場の同僚同士で、子供のころにサインボールをもらい、いつかはクレメンスのようになることを夢見て育ったといわれている。引退の噂されるクレメンスとワールドシリーズの桧舞台でマウンドを共有し、若いベケットがヤンキースに投げ勝つ。これも時の移り変わりを象徴する出来事だ。
それにしても、球界を代表する速球投手にはなぜかテキサス州出身者が多い。伝説の大投手ノーラン・ライアンに始まり、ロジャー・クレメンス、カート・シリング、ケリー・ウッズ、そしてジョッシュ・ベケットと、時代を代表する速球投手が顔を揃える。西部の男たちが持つ「テキサス魂」が、打者に真っ向から向かっていく速球派を生み出すとの説もあるが、本当のところは分からない。これもメジャーリーグの七不思議の一つだ。
投稿者 形山昌由 : 2003年11月01日 18:41 | [EDIT]
