2003年11月12日

イタリアのニュース。わかりやすいけど、少しヘン。

小池弘美

冬である。この時期になるとテレビのニュース番組では、インフルエンザ情報・対策が報道される。かりに去年の映像が流れたとしても気づかれはしない。それほど毎年同じことが放映されている。まず、必ず画面に映るのが、咳をしている人。頭痛がつらいのよ、といいたげに、額に手をやる人。わざとらしいったらない。そして識者の意見。医者が、栄養と休養をとるように、と尤もらしく助言する。

電話代の値上げのニュースのときは、電話機のダイヤルを押している手の映像、と相場が決まっている。私にとっては噴飯ものであっても、見ている側にとってはニュースをわかりやすく伝えるための方便なのだ。文字のかわりに映像が使われているといってもいい。難しい臓器移植が成功したときのニュースなら、画像は医者が手術をしている様子。難手術のたびにカメラが手術室に入るとは思えない。やはりこの場合も映像と事実の間には直接の関係はないのだろう。そういえば去年のSARS騒ぎのときにやたらと目にした映像は、中国の農村風景(と私には思われた)のなかの、絞めた鶏を持ち歩く人の後姿だった。

よく聞かれることのひとつに、「日本もイタリアと同じくらい長寿国なんでしょ」というのがある。同じくらい、と書いたが彼らの言うニュアンスはイタリアが一番、である。たしか日本は80年代ぐらいから最長寿国だったはず。うろ覚えだが。調べると現在のイタリア人の平均余命は日本人のそれに2歳ほど及ばない。なのに彼らは、「おらが国が世界一」と誇りにしている。いったい情報ソースは何なのだ。 国民に真実を知らせないなんて。ある日、それがわかった。ニュース番組で私も聞いたのだ。「いまやイタリアは世界の「最」長寿国のひとつです」と言うのを。その他の「最」長寿国についての言及はない。事実を100%伝えて国民を落胆させるより、いいところだけ見せて喜ばせておこう、そんな意図すら汲み取れる。彼らに向って事実をいうのは勇気がいる。「イタリア人の長生きの秘訣は食べ物とワインさ。 ストレスだらけの日本人の方が長生きだって?なにかの間違いだろ。」信じないに違いない。

捕鯨関連ニュースでは、60年代に撮影されたのかと思えるような、どこの国のものか判別がつかない捕鯨船の白黒映像が現われる。ご丁寧に悲しげな音楽までがBGMとして使われ、見るものの心に訴えかける。「こんなに残酷なことをしているんだよ、日本は」と。映像を流す方の意図がここまで見えてしまっていいのか、と思う。しかし見えているのはわたしのような外から来た人間で、ここの人々はその意図に気づかないようなのだ。

二十余年前のフォークランド紛争のとき、報道のカタチが国によって違うことを目の当たりにしてショックを受けた。世界中でこの紛争の成り行きを報道していた。どうして「世界中で」ということがわかったかというと、ある新聞紙上に、世界の主要紙の一面記事の紹介欄があって、それが紛争一色だったからだ。そのなかで唯一、旧ソ連のイズベスチャの記事だけが、農作物の収穫についてだった。「ソ連の人たちは、世界を知らされていない。小麦が豊作かどうかが目下の一大事なのだ。これはソ連の人々にとって幸福なことだろうか、不幸なことだろうか」そう思ったのだった。

今イタリアにいながら、この国の報道のあり方に同じような思いを抱くことがある。ニュース番組を見るたびに「これでいいのかキミたち!」と思う。

その矢先、まさに溜飲を下げるニュースを読んだ。日本の新聞社のサイトだった。国境なき記者団による、世界「報道の自由」ランキングで、イタリアはG7加盟国最低だった、というもの。首相のベルルスコーニが国じゅうのほとんどのメディアを切っているからだそうである。そのせいだろう、イタリアのテレビではこのニュースを見かけなかった。

さて、日本はどうだったか。調べてみておどろいた。昨年の26位から44位にランクが下がっている。ベルルスコーニもいないのに。もっと驚いたのは、イタリアを先進国で最低と表現した日本のサイトが、記事の中で自国の位置付けについて一切ふれていなかったことだ。この日本の「凋落」について、どこかの新聞・雑誌が分析、論評したろうか。していればいいけれど。44番目の日本が53番目のイタリアを、「最低」と取り上げることこそ噴飯ものではあるまいか。

投稿者 小池弘美 : 2003年11月12日 17:34 | [EDIT]

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