2004年02月29日
続・すぐに使えるヴェネツィア語講座
小池弘美

「朝、目をさまして窓の外をうかがうと、濃い霧がでていた。霧はイタリア語で「ネッビア」という。美しい響きである。ヴェネツィアでは、11月を過ぎるころから霧に悩まされる。霧のせいで簡単に航空便がキャンセルになったり、本土とヴェネツィア本島を結ぶ橋で交通事故がおきたりする。決してロマンチックなものでも心地よいものでもない。
「ネッビア」はヴェネツィア方言では、「カイ−ゴ」。間寛平がひところはやらせていた「かい〜の(痒いの、と言いたかったんだろうか)」、あの抑揚で「カイ〜ゴ」と発音すれば完璧にヴェネツィアの霧になる。ヴェネツィアを訪れたその日、霧が立ち込めていたら「ゲ・ゼ・カイ〜ゴ」というべし。天候の話が会話のきっかけ、というのは日本でもイタリアでも同じことである。思わぬ旅先でのふれあいが生まれるかもしれない。
「ホンダ」や「スズキ」以外の日本語の名前は、イタリア人にはなじみがない。わたしの姓も彼らにはなかなか覚えてもらえない。わたしの姓は「コイケ」だが、ヴェネツィアでは「コイケ」というと腹部の激しい痛みのことである。よくあるでしょう。時代劇で、ばあやと旅を続ける娘が突然、「さしこみが・・・」といって街道の茶屋のそばでうずくまるシ−ンが。あの「さしこみ」のことですね。「コイケ」と名乗ったあとで相手が「は?」という顔をしたら、「コ・イ・ケ。マル・ディ・パンチャ(腹痛)のことね」というと、確実に発音を覚えてくれる。日本語の姓のなかに、地元の言葉で「腹痛」を意味するものがある、というのは、こちらの人にとってはかなり違和感があるんじゃなかろうか。それにしたって、「コイケ」がヴェネツィア語でもっとキレイな意味だったら、わたしのイタリア生活もすこしは変わっていたかも知れない、と思うのである。「霧の中の青い薔薇」、とか「傷ついた美少年」とか。ま、あくまでわたしの場合は「腹痛」であって「排便障害」っていうわけじゃないし、よしとするか、と思うことにしているけれど。
姓の「コイケ」はロ−マ字表記でKから始まるが、ヴェネツィア語の「コイケ」はCで始まる。イタリア語でK(カッパ)が使われることはない。あるとすればイタリア語からみた外来語のときである。余談だが、大好きな格闘技のK−1を説明するのに「ケイワン」といわずに「カッパ・ウノ」といわねばならないのがツライ。どうしても世界最強の筋肉ムキムキ河童を想像してしまうのだ。
話かわって、おもしろい言葉あそびがあるので紹介してみる。
世界で一番有名なロシア人のゲイの名前は?
答えはアンドレイ・コイマスキ。「アンドレイ・コイマスキ」という文は、イタリア語で「男と出かけたいもんだね」、の意。ロシア語の響きのあるフレ−ズを、名前に読み込んだものである。
日本語版をひとつ。世界で一番有名な日本のバ−テンダ−は何て名前?
答えは「のごすき・まきのと」。日本人の名前っぽいでしょう。これがヴェネツィア方言で、「フルーツジュ−スはないけどさ、キノット(炭酸飲料の一種)ならあるべよ」という意味。ヴェネツィアの人たちが外国語の発音をどう感じているか、がすこしわかる。
どうでもいいことばかり並べてきて、大事な言葉をわすれていた。
「チャオ」はなんとヴェネツィア方言だったのだ。もとの言葉は「スキア−ヴォ・ヴォストロ」。直訳すれば「あなたのしもべ」。ヴェネツィア共和国時代に、商取引の際に使われていたことばで、「ご用命賜ります、なんでもおっしゃって下さい」というへりくだった意味があった。簡素化されて「スキア−ヴォ」になり、これがまた縮まって「チャ−オ」に変わっていったのだ。
やはり、「ゲ・ゼ・カイ〜ゴ」より「チャオ」から会話に入るのが自然かも。
投稿者 小池弘美 : 2004年02月29日 17:24 | [EDIT]
