2004年06月04日
佐世保事件異聞Ⅱ・読み違えた情報
鷹井 潤
私事ではあるが犬を飼っている。しかしある人物はこの犬を殊のほか憎んでいた。自分に対し、むやみに吼えるというのである。本人は歓迎を望んでいたが、犬はこの人物を侵入者として、排除しようとした、ここに情報の読み違えがある。やがてこの犬はこの人物に慣れ、尾を振り、腹を見せるまでになった。腹を見せるという犬族の行動を翻訳すれば、「これだけ無防備です。あなたを信頼できるからです」という意味になる。この人物は今、この犬をかわいくて仕方がないと述べている。変わったのは犬でもなく、人でもなく相互の情報の読み取り方である。
犯罪を理解するための重要なポイントは、犯行者特有の情報を読み取るパターン=認知スタイルである。勿論、詐欺犯は故意に情報を操作するが、人を殺傷に至らしめるような事件や性犯罪の場合、自身も認知のゆがみを知らない、変えない、あるいは他者には自分と異なる認知があることを理解できない場合が多い。相手に誘われたことを理由に、本気で犯罪成立を否定する性犯罪者は存在する。最悪の場合には訴えられることが信頼の裏切りであるとして逆恨みをする場合さえある。また健常者であってもインターネット上で敵意が増幅されるのは、認知される情報の乏しさによるのだろう。生身の世界には相手の表情、声のトーン、身のこなしなど記号化できないアナログな情報に満ちているからだ。また暴力をエスカレートさせる犯行者は、被害者の発する犯行を制止するはずの情報を感知できていない可能性がある。重大事件を犯した「普通の子供」の認知世界を、特殊な心理テストで把握した場合、生きた他者のいないその不毛さに戦慄させられることもまれではない。しかし高度に産業化された世界、デジタル化された人工物の世界では微妙な情報や他者の存在を感じ取る必要があまりなく、それでも結構「普通」にやっていけるものなのだろう。社会も決められた記号に従っていくだけで、個人生活がなんとかなる人工世界をこれまで作ってきたのではないだろうか?しかし希望のものにボタンを押すだけですまないこともある。ボタンを押して他人をコントロ−ルをすることはできない。最近は大人も使う「むかつく」という言葉は、自分の世界に現れた他者という異物を排除しようとする言葉のように思われる。
この事件は、小学校で普通の子が友達を殺害した動機が問題になっている。しかし動機とは大人社会の言葉で、この子供の認知世界の言葉ではない。友達というのも、この子供の世界ではどういうものなのかも分からない。少なくともネット上の情報のやり取りに起因することは確かである。この子供の世界のなかで、それがどういう意味を持つのか、それが解明のポイントであろう。
投稿者 鷹井 潤 : 2004年06月04日 21:43 | [EDIT]
