2003年10月23日
R・クレメンスと『ブーイング』
成田好三
メジャーリーグのスタープレーヤーたちが敵地に乗り込めば、ホーム球団の観戦者たちから何とも盛大な『ブーイング』の嵐を浴びる。バリー・ボンズ(ジャイアンツ)サミー・ソーサ(カブス)アレックス・ロドリゲス(レンジャーズ)たちだ。イチロー(マリナーズ)も彼らの『仲間』に加わっている。
さらに盛大にブーイングの嵐を浴びるのは、相手球団の大投手たちだ。どんなにすごい強打者でも1試合には4、5回しか打席に立てない。いつでも本塁打や適時打を打てるとは限らない。しかし、味方打線がとても打ち崩せそうもない豪速球や、信じられないほどに怪しく曲がる変化球を自在に操る、相手球団の大投手となれば話は別である。
ホーム球団を勝たせるために観戦者たちは、これでもかとばかりに、ブーイングの嵐をマウンド上の大投手に浴びせかける。メジャーリーグの大投手は、ブーイングの嵐に耐えられることが最低の条件となる。
メジャーリーグで最も盛大にブーイングの嵐を浴びるのロジャー・クレメンスである。300勝、4000奪三振を達成したこの大投手は、ワールドシリーズに出場するため、『世界一』になるため、レッドソックスからヤンキースに移籍した。その『果実』として複数の『チャンピョンリング』を手に入れた。
レッドソックスとヤンキースは、メジャーリーグの草創期からのライバルである。それに加えて、ベイブ・ルースをヤンキースに売り渡して以来、レッドソックスはワールドシリーズ優勝から見放されてきた。『バンビーノ(ルースの愛称)の呪い』である。
熱狂的なレッドソックスの観戦者たちはR・クレメンスの『決断』を許さなかった。
レッドソックスの本拠地での、ヤンキース—レッドソックスのレギュラーシーズン最終戦にある『事件』が起きた。ヤンキースのリードのまま、7回終了後に降板したR・クレメンスをレッドソックスのファンは盛大なスタンディングオベーションで迎えた。彼が今季限りで引退することが分かっていたからだ。
R・クレメンスに対するレッドソックスの観戦者たちの『愛憎一体』の感情が表出した瞬間だった。レッドソックスの観戦者たちは、自分たちを見捨てたR・クレメンスを憎んでいた。しかしそれと同じくらい、彼に対して『愛情』と『尊敬』の感情を抱いていた。
R・クレメンスはいつもの通りの厳しい内角攻めで強打のレッドソックスを抑え込んだ。しかしこの試合は『特別な試合』だった。「あいつははもうここでは投げない。我々の球団を打ちのめすことはない。あいつの投球を見るのはこれが最後だ。しかし、あいつはすごいやつだ」
イヴァン・ロドリゲス率いるマーリンズとのワールドシリーズ第4戦。現役最後の先発登板でもR・クレメンスは敵地で盛大なブーイングを浴びて登板した。しかし7回の降板の際には、盛大なスタンディングオベーションを背負ってベンチに戻った。ブーイングには『愛情』と『敵意』が複雑に絡み込んでいる。
投稿者 成田好三 : 2003年10月23日 21:03 | [EDIT]
