2003年10月31日
松井秀喜が「生まれかわった」瞬間
成田好三
世の中の常識とは異なるが、人は徐々にではなく、あるとき突如として変わるものだと考えている。長い時間をかけて彼の内部に蓄積されてきたものが、あるきっかけによって、奔流のように噴出する。その瞬間に彼は、それまでの自分とは別の、新たな自分に生まれかわる。
松井秀喜(ヤンキース)の『変身』する瞬間を見た。ア・リーグ優勝決定シリーズ第7戦のあるプレーによって、松井は生まれかわった。レッドソックスのリードで迎えた7回、二塁打で出塁した松井は、次打者の二塁打で同点のホームを踏んだ。
その瞬間、松井はホーム上で大きくジャンプし、腹の底からの雄叫びをあげた。ナインに出迎えられた後も興奮はおさまらない。松井のそんな姿は見たことがない。高校時代、読売巨人軍時代、メジャーリーグでも初めてのことだ。試合中に感情を抑え込むことを自らに課してきた松井が、生涯で初めて自らを『解放』した瞬間だった。
松井は、この瞬間から新しい自分に生まれかわった。それは、ワールドシリーズでの松井の態度、雰囲気、成績にはっきりと表れている。先制3ラン本塁打、決勝適時打、そして第5戦では『四番』に座った。ヤンキースの、Wシリーズでの『四番』である。自軍と対戦相手のマーリンズの監督、コーチ、選手の松井を見る目が変わった。そして何よりも、メジャーリーグを代表する大捕手、イヴァン・ロドリゲスの『評価』が変わった。I・ロドリゲスは明らかに松井を最も恐れ、警戒している。
松井は何故あのとき、自らを解放し変身したのか。それには理由がある。相手投手がペドロ・マルティネスだったからだ。松井はメジャー挑戦に当たって、ある密やかな『目標』を胸のうちにしまっていたはずだ。メジャーリーグ最高の投手であるP・マルティネスを打ち崩すことだ。
レギュラーシーズンでは、その目標は叶わなかった。10打数無安打、それが結果だった。しかし、リーグ優勝決定シリーズ第3戦で松井は、P・マルティネスから初安打を放った。右越えのタイムリー2塁打だった。そして第7戦を迎えた。松井はまたもP・マルティネスから2塁打を放ち、『最高の舞台』進出の足掛かりとなるホームベースを踏んだ。
松井はその瞬間に確信したはずだ。ついに目標を達成した。その歓びが爆発的に表出した。それが松井の初めての雄叫びだった。それと同時に松井の内部では、ある大きな変化が起きた。それまで『否定』し続けてきた、メジャーリーグの強打者としての自らをついに『肯定』したのだ。そのとき松井は変身し生まれかわった。
投稿者 成田好三 : 2003年10月31日 20:55 | [EDIT]
