2003年11月09日
「プロ野球に入って一番しんどかった試合」とは
成田好三
プロ野球選手の素晴らしい『表情』を久しぶりに見た。超一級の技術と実績、そして誇りをもつ選手たちが、まるで甲子園での高校球児のように球を投げ、打ち、捕球し、全力で疾走した。ここで言う表情は、喜怒哀楽による単なる顔かたちの変化ではない。特別な状況におかれたアスリートが、その状況を克服するために全力を傾けるときに見せる、彼の心と身体からあふれ出すパフォーマンス全体のことだ。いわば彼から輝きだす『オーラ』のようなものである。
アテネ五輪予選を兼ねて札幌ドームで開催された「アジア野球選手権」の決勝リーグ(11月5-7日)で日本は、中国、台湾、韓国に快勝し、五輪への切符を手に入れた。その3試合で日本代表選手は特別な表情を見せた。
初戦の中国戦、第2戦の台湾戦に先発した上原浩治(読売)、松坂大輔(西武)は、リーグ公式戦以上の緊張感をもつて投げる。格下相手という意識はまったくない。松坂は蒼ざめているかのようにも見えた。
プロ野球を代表する強打者である高橋由伸(読売)、福留孝介(中日)、小笠原道大(日本ハム)らが徹底したピッチャー返し、センター返しをする。谷佳知(オリックス)が背走しながらセンター後方を襲った大飛球をキャッチすれば、ライトの福留はフェンスに背中を打ちつけながら捕球する。
俊足選手ぞろいの代表選手は出塁すると、まるで風のようにダイヤモンドを走り抜けた。野球の魅力は走塁にある。鈍足の選手はいない。誰が出塁してもその後の攻撃にスピード感がでてくる。
そして何よりも魅力的だったのは、異様なほどに輝いていた彼らの『目』である。パ・リーグで2年連続首位打者を獲得した小笠原の目は、日本代表初選出の緊張感と高揚感にあふれていた。
彼らは普段、所属する球団の中心選手として球団とファンの期待を背負ってプレーする。それ自体もかなり重い行為である。リーグ公式戦での優勝争い、日本シリーズでは、心身をすり減らすような戦いになる。
しかし、日本国民の期待を一身に背負ってのプレーは、彼らにとってそれ以上に重い行為となった。最後の韓国戦の直後、全試合でマスクをかぶった城島健司(福岡ダイエー)が語った言葉が印象的である。
彼はテレビのインタビューに応えてこう言った。政治メディアで言う『ぶら下がり』取材に対する答えだから、恐らく彼の本音だろう。「これでゆっくり眠れる。(プロ野球選手が)アマの夢を受け継いだ形になった。プロに入ってこんなにしんどい思いをしたのは初めてだ」
福岡ダイエーの正捕手としてリーグ公式戦の全140試合、阪神との日本シリーズ全7戦に出場し、日本一に大きく貢献した城島が、五輪のアジア予選は日本シリーズ以上に『しんどい思いをした』と語ったのだ。
アテネ五輪本番で日本代表選手は、もっと『しんどい思い』を強いられる。しかし、その重さから逃げ出す選手はいないだろう。普段のリーグ戦では得られないそうした『しんどさ』こそ、彼らが心の奥底で強く求めていたものだからだ。
投稿者 成田好三 : 2003年11月09日 20:49 | [EDIT]
