2003年05月01日
デフレをめぐる『3つの誤解』
森 摂
日本が「デフレ」から脱却する糸口がまったく見えない。4月25日に発表された3月の消費者物価で、 生鮮食品を除く総合指数は3年6ヶ月連続で下落した。名目賃金(全産業の現金給与総額)も、今年2月まで22ヶ月連続で減り続けている。
しかし「モノの値段」が下がり続けるのは単にデフレだからなのだろうか? デフレは一般的に、 供給が需要を上回るために物価が持続的に下がり続けることと説明されるが、さらにメディアで目立つ論調としては
(1) デフレには「良いデフレ」と「悪いデフレ」がある
(2)今の日本は「デフレ・スパイラル」になりかけている
(3)インフレになれば景気は良くなる
——がある。果たして、そうだろうなのか?
(1)は、デフレには物価を下げて生活の質を上げるのに貢献する「良いデフレ」と、景気に悪影響を及ぼす意味での「悪いデフレ」があるという論調だ。 だがデフレに善悪はない。今の日本で起きている物価下落は、「経済のグローバル化」によってもたらされた、不可避の現象ととらえるべきだ。
世界企業はグローバル競争を勝ち抜くため、相次いで中国やアジア、中南米など労働単価が安い国々に生産拠点を移した。 中国では1980年代後半から世界企業の対中投資が始まったが、当初は稚拙だった生産技術も10数年の年月を経て飛躍的に向上し、 ここ数年で世界の工場として花開いた。これが「中国発のデフレ」と呼ばれるもので、単に日本だけの問題ではない。
「悪いデフレ」というのは、デフレ・スパイラル論と重なる。「モノの値段が下がる→企業の売上高や利益が減る→リストラで失業者が増え、 賃金も下がる→モノが売れなくなり、さらにモノの値段が下がる」という悪循環が起きているとの主張だ。
だが、「物価下落」と「企業のリストラ」は、経済のグローバル化によってもたらされた「表裏一体の存在」であって、相関関係ではない。 物価が下落するからリストラするのではなく、日本の賃金体系ではグローバル競争に勝てないからリストラするのだ。
日本企業は今後、たとえ業績がよくなったとしても、労働者の賃金をやみくもに上げる方向には動かない。 終身雇用制や年功序列賃金の崩壊がさらに進み、稼げる人とそうでない人の格差はさらに拡大していく。 そして、もう一つ、GDPの6割、約300兆円を占める個人消費が動かないのは、健保本人負担の5割増 (負担率が2割から3割へ増えたのは1割増ではなく、5割増)・増税などの負担増や、この国の将来に対する漠然とした不安が大きい。
三つ目の誤解は、「インフレになれば景気は良くなる」。インフレ・ターゲット論者の主張はこの期待に基づく。 だが、これは政策的にインフレを起こすことはできない、という意味で、誤りだ。 いくら日銀が金融緩和に動いても銀行は国債を買うばかりで、実体経済は動かない。
インフレにする手立ては一つしかない。それは「鎖国」だ。輸入を禁止するのである。 中国からの輸入ができなくなれば、ユニクロは1900円でポロシャツを売れなくなる。 製品輸入が止まれば、おそらく、一時的な禁輸措置だけでも消費者物価は3%くらい上がるだろう。
だが、残念ながら、日本は鎖国することはできない。WTO(世界貿易機構)は相互主義の立場だ。 一方的に関税を上げたり、禁輸措置を取ったりすることは許されない。つまり、日本が自由貿易立国を標ぼうしている以上、 低価格品もデフレも受け入れざるを得ない。
むしろ、デフレは物価下落(モノのデフレ)と、株や地価の下落(資産デフレ)に分けて考える必要がある。 モノのデフレは、前述したように不可避。受け入れるしかない。一方で、資産デフレは「モノのデフレ」よりさらに深刻な影響を及ぼす。 2002年度の決算では、NECや三菱電機など、本業は好調だったのにもかかわらず、株式評価損で最終減益に陥った企業が続出した。 これ以上の株価下落は、実体経済に計り知れない影響を与える。
株価下落を克服するカギは「個人」だ。日本の株主のうち、個人の割合は約2割と、米国の4割に比べてはるかに低い。 株価の回復には、郵貯や簡易保険、国債、銀行預金が大量に抱え込んでいる「個人マネー」を税制優遇によって大量に株式市場に誘い出す政策をとる必要がある。
地価の下落は、東京や神奈川など一部地域を除いては止めようがない。地価は需要と供給のバランスで決まる。 2006年をピークに日本の人口は減少に転じる。これは需給をさらに緩ませる。そうなると地価回復には、人口を増やすしかない。 それには、乳幼児・児童の保育費・医療費の負担を大幅に軽減するなどの支援策で出生率を上げるか、 それができなければ新たな「開国」、つまり移民を入れるか、外国人労働者を増やすという思い切った措置が求められる。
以上の点を整理すると、モノのデフレは防ぎようがなく、資産デフレについては、株主や子供を産み育てる世代、 つまり「個人」を大事にすることが、経済や社会の停滞を打破するための最大の課題といえる。
投稿者 森 摂 : 2003年05月01日 18:10 | [EDIT]
トラックバック
このエントリーのトラックバックURL:
http://ufp.main.jp/cgi-bin/mt/mt-tb.cgi/3
このリストは、次のエントリーを参照しています: デフレをめぐる『3つの誤解』:
